エルメスのスカーフ(カレ)の作り方、職人の心血注いだ努力について

“エルメス = 高級品”と思われているところはがあるが、彼ら自身は自分達を「職人の集まり」と表現している。

男性である私が、基本的に女性のものと思われているスカーフに興味を持ったのは、下のデザインを見かけたからだ。

カレ 90 《ラ・ヴァレ・ドゥ・クリスタル》

スカーフというよりも、1枚の絵画のようではないだろうか。

“クリスタルの谷”というタイトルがついているこのスカーフ。

クリスタルで出来た洞窟の中を散策していると、その先にユニコーンを見つけ、湧き水があり、その水には空の青が写っている、そんなストーリーを感じた。

調べてみると、エルメスのスカーフには1枚1枚ストーリーがついているようだった。

霧立ち込める山々の遠く向こうに、スポットライトのように光るものが見えます。蜃気楼でしょうか? あれは水晶の谷。目にした瞬間、わたしたちを夢見る子ども時代へと連れ戻します。魔法の水晶が立ち並ぶきらめく谷間を、空想上の生き物であるユニコーンの背に乗って進みます。幾重にもきらめく荘厳な光の中、大きく開けた空を映し出す小川を流れる澄んだ水面。世界の中心がそこにあります。ユゴ・ビアンヴニュが描く、砂糖菓子のように甘やかで心温まる風景です。心ゆくまでご堪能ください。

カレ 90 《ラ・ヴァレ・ドゥ・クリスタル》

俄然、興味が湧いてきてエルメスのスカーフ本を読んでみたところ、このスカーフの製造工程が常軌を逸した手間がかかっていることとわかってきた。

まず、どのスカーフもテーマ決めから製品になるまで18ヶ月〜2年以上かかる。

その流れが以下の通りだ。

1、テーマを決めるために資料持参で会議。1枚1枚に物語を組み立てる

2、モチーフ選び。

3、数回に渡るデッサンの打ち合わせ。モチーフを細切れにして組み合わせたりする。

4、カラー原画の書き起こし。90cm角の原寸大で作成するが、この時点でも手直しが要求されることも。

5、精版。原画を1色1色別々の版画の版にしていく。この作業に1枚のスカーフで600時間、約半年が必要になる。1枚のスカーフにつき、平均600枚ほどのスクリーンになる。

6、配色。専門のカラリストが25種類ほどの配色例を作成。見本のスカーフを手刷りで作製。

7、エルメス本店へ見本を送り、25種類から10-12種類を選定。

8、製品版の印刷

9、上記で色の定着

10、縁を手でかがり縫い。(ルロタージュ・ア・ラマン法)

参考文献:エルメスの道 p180-187

他社は平均15色程度の色が使われるが、エルメスは倍以上の40色が平均。図柄によっては70や80色にもなる。

また、染料を自社配合しており、赤1色でも5万色に及ぶ配合を記録保存してあるそう。

先ほどの”クリスタルの谷”のスカーフも、カラリストの手によって下記のような様々な色が作られている。

また、原料となる絹糸も専門のブラジルの農家と長年のパートナーシップを結んでいるよう。

最初きのスカーフは、当時入手できる生糸のうちで最も丈夫だった中国産の生糸を使っていたが、現在の原料はブラジル南部のパラナ州で生産されたもので、現地の養蚕農家とエルメス社は長年のパートナーシップを確立している。

~~中略~~

そのカイコが作るマユは、切れることなく続く1本のシルクの糸でできており、糸の長さは1500メートルもある。代表的な90センチ四方のカレ1枚に生糸は45万メートル、マユ約300個分もの生糸が使われる。最も高品質なA6等級の生糸だけを使うので、重さは約63グラムだ。

エルメス スカーフの魅力とその物語 p58

このような人々の心血が注がれた努力が結実して、あのスカーフ1枚1枚が出来上がるのかと思うと感動した。

ただ”美しいスカーフだ”と思って使うのも良いが、裏でどれだけの人が努力を重ねているのか知ると、より一層大切に扱おうという気になる。


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こうちゃん

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